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東京高等裁判所 平成元年(行コ)3号 判決

東京都千代田区内幸町一丁目二番二号

日比谷大阪ビル八六四号

控訴人

吉永多賀誠

東京都千代田区九段南一丁目一番一五号

被控訴人

麹町税務署長

佐藤清和

右指定代理人

林菜つみ

石黒邦夫

關口信一

渡辺定義

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和六一年三月三日付けでした控訴人の昭和五七年分及び昭和五八年分の各所得税の更正並びに昭和五九年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定の各処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決七枚目裏一〇行目の「施行期則」を「施行規則」と改める。)。

一  控訴人の当審における主張

1  顧問料の事業所得の総収入金額算入について

(一) 被控訴人は、本件顧問料が事業所得の総収入金額に算入されるべきである理由として(1)控訴人が弁護士事務所を有していること(2)顧問契約が口頭でなされていること(3)顧問先が控訴人に対して勤勉手当、扶養手当、夏期手当、年末手当等を支払わず、また、健康保険法、厚生年金保険法等による保険料の控除をしていないこと、顧問先に専従する等拘束を受けていないことなどを挙げるが、右主張は次の理由により誤つている。

すなわち、(1)所得税は、所得税法二三条ないし三五条所定の所得に課せられるものであつて、職業に課せられるものではないし、(2)顧問契約は口頭であると書面であるとにより我が国の法制上その効力に差異はない。また(3)雇用契約には常勤契約と非常勤契約とがあり、国家公務員にも民間職員にも非常勤職員があるが、国家公務員の場合、非常勤職員には給与の外には期末手当を支給しない旨の規定があるのであり、各種手当の支給がないからといつて直ちに雇用契約の存在を否定することはできないのである。さらに、所得税法(一九四条一項六号)には、「二以上の給与等の支払者から給与の支払を受ける場合」についての規定があり、給与所得者が一人の給与支払者に専属する必要がないことを容認しているのであるから、顧問先に専従していないとか、同時に数個の会社と顧問契約をしているからといつて顧問料収入を事業所得とする理由にはならない。そして、二か所以上から給与を受ける者は、そのうちの一か所で健康保険、国民年金保険に加入しているならば、二重に保険に加入することはできないのであるから、それ以外の者からの給与について保険料の控除を受けることがないのは当然である。

(二) 国税局長官より国税局長に宛てた昭和二六年一月一日付、直所一-一所得税関係に関する基本通達の一〇七(甲第一〇号証)には「弁護士、税務代理士、医師のような自由職業者が会社等から受ける顧問料、手当等は、その支払を受ける時期および金額があらかじめ一定しているいわゆる固定給である等給与所得であることの明らかなもの」と定められているが、右通達は、弁護士が会社等から顧問料、手当等の固定給を受けることを前提として発せられているのであり、本件顧問料は、右の固定給として給与所得にあたるというべきである。被控訴人は、右基本通達を適用していないので、本件各処分は違法である。

2  旅費交通費の必要経費算入否認について

日当は日数に応じて定額で支払われるもので清算を要しない。控訴人は、出張につき食卓料(国家公務員等の旅費に関する法律六条一号、八号)を受けないで、日当を受けてこれを食事代、タクシー代、その他旅行中の諸雑費の支弁にあてるのである。所得税法九条一項四号は「その旅行について通常必要であると認められる」旅費には所得税を課さないと定めており、「旅行について通常必要であると認められる」金額とは、現実に支出すると否とを問わず、旅行に通常必要であると認められる金額をいう。

そして、所得税法九条一項四号は、その適用対象者を給与所得者に限定し、給与所得者が職務遂行上収受した旅費中必要相当額についてのみ非課税としたものと解すべきではない。給与所得者にあらざる者が、給与支払者以外の者から受ける旅費につき所得税を課せられないことは、裁判所やその他の諸官庁が支払う旅費について実証されるところである。裁判所が証人に対して旅費を支給する場合は、その証人の所得の種類、業務如何を問わずその旅費について一律に課税をしないし、また、国選弁護人に対する日当(旅費の一種)についても課税していない。

二  被控訴人の当審における主張

所得税法九条一項四号は、その適用対象者を給与所得者に限定し、給与所得者が職務遂行上収受した旅費中必要相当額についてのみ非課税としたものである。

本件日当は、控訴人自身が弁護士としての業務を営む事業所得者であり、本件顧問先との雇用関係は何等存在しないのであるから、所得税法の右規定の適用を受ける余地は全くない。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決二三枚目裏二行目の末尾に続けて次のとおり加える。

「控訴人は、当審において、本件顧問料による収入は事業所得に算入されるべきものではないとして種々主張する(控訴人の当審における主張一の1(一)、(二))が、前記のとおり、(イ)控訴人が弁護士事務所を有していること(ロ)本件顧問契約が口頭でなされていることのみをもつて本件顧問料による収入を事業所得に算入すべきものと認定判断したものではないし、また(ハ)控訴人が顧問先との間で非常勤の雇用契約を結んでいるとか、複数の顧問先のうちの一か所で健康保険法、厚生年金保険法等による保険料の控除を受けているとかの事実を認めることはできないから、右主張はいずれも採用することができない。なお、原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇号証によれば、控訴人主張のような所得税法に関する基本通達が存在していたことが認められるが前記説示のとおり、本件顧問料は、右通達にいう「給与所得であることの明らかなもの」にはあたらないというべきである。」

2  同二六枚目表二行目の末尾に続けて次のとおり加える。

「控訴人は、当審において、所得税法九条一項四号の適用対象者は、給与所得者のみに限定されるべきではない旨主張するが、明文の規定に反し、採用することができない。なお、裁判所が国選弁護人に対して支払う日当について源泉徴収をしていないとしても、それは、給与所得者以外の者に対して右規定が適用されることを認めたことによるものではない。」

二  よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田尾桃二 裁判官 市川頼明 裁判官仙田富士夫は転任のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 田尾桃二)

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